妊娠のしくみから、不妊治療を考える(その3)

受精卵が細胞分裂をする(卵割)

前回までで、
1.配偶子をつくる:妊娠のしくみから、不妊治療を考える(その1)
2.受精する:妊娠のしくみから、不妊治療を考える(その2)
ところまでをお話ししてきました。

体外受精を行うと、卵子と精子が受精する過程を体の外で観察することが可能なので、すべての卵子が受精するわけではないということがわかります。
だいたい、7-8割程度が受精します。この期待値より低い場合、受精障害があると考えられます。

うまく卵子に精子が受精して受精卵になると、体細胞分裂を繰り返して細胞の数が増えていきます。
最初は数が数えられる程度ですが、やがて数えられないくらいに増え、きゅっとコンパクトになってきます。
やがて、球体の中に空洞がある構造になり、胎盤を作る部分と赤ちゃんの体を作る部分に分かれてきます。

この状態に育つまでがだいたい5日間です。
そして、この程度まで増えた受精卵(胚)を、胚盤胞とよびます。

受精卵が胚盤胞まで育つ割合はどの程度でしょうか。
だいたい6-7割程度です。ただし、この割合は、年齢とともに下がってしまいます。

受精卵が胚盤胞まできちんと育つには、必要な遺伝子が適切なタイミングで働くことが必要です。
残念ながら今の技術では、そこまでをコントロールする治療はありません。
治療を繰り返すことで、うまく育ってくれる卵ができることを目指すことになります。

着床する

胚盤胞に育つまでがだいたい5日間。
この頃には、受精卵は卵管から子宮の中まで移動し、子宮の壁にあたる子宮内膜にもぐりこんでいきます。
それが着床です。

受精卵(胚)に染色体異常があると、 着床にいたらなかったり初期に流産してしまいます。
染色体異常がなくても着床しない場合、その他に着床しにくい原因がある可能性があります。
それを着床障害といいます。

着床しにくい原因には、
1.黄体機能不全:妊娠維持に重要な黄体ホルモンが不足している状態
2.子宮の形態異常:子宮筋腫や子宮腺筋症、子宮内膜ポリープなどがあるため、子宮内膜の形や血流が受精卵(胚)の着床の妨げになってしまう状態
3.慢性子宮内膜炎:子宮内膜に弱い炎症が持続して起こっている状態
4.着床しやすい時期がずれている
などがあります。

黄体機能不全の場合には、黄体ホルモンを補充します。
子宮の形態学的な異常は、手術などで治療することがあります。
慢性子宮内膜炎、着床しやすい時期の検査や治療は、まだ研究段階の部分もありますが、なかなか着床しない場合には考慮してみましょう。

不育症とは…

妊娠するけど、流産を繰り返すことを不育症と言います。

染色体の異常、免疫学的な異常、血液の凝固に関する異常、子宮の奇形、内分泌系の異常などが原因となりえますが、まったく原因がわからないものもあります。

流産の経験は、カップルにとって非常につらいものです。
検査や治療を考えたときには、その喪失感に寄り添いながら、原因検索や治療をしてくれる医療機関を見つけてください。
流産を繰り返した後でも、治療を受けなくても妊娠・出産できる不育症の方がある一定数いらっしゃるということも、お知らせしておきたいと思います。

まとめ

これまで見てきたように、配偶子ができ、受精、着床するまでの過程は複雑です。
どの段階に異常があっても、妊娠しにくくなってしまいます。
どの段階が軽い異常、重い異常といった違いはありません。

一方、不妊治療では、治療方法をステップアップするという言い方をよくします。
そのため、治療がステップアップした方が重症であるようなイメージが持たれがちです。

ステップアップしていくのは、受精のさせかたです。

まず、排卵の時期にあわせて性交するタイミング療法。基本的に自然な形です。
次は、排卵の時期にあわせて精液を子宮の中に注入する人工授精になります。精子が卵子に出会うまでの通り道の一部をワープする治療になります。
ここまでを一般治療とよびます。

次のステップが生殖補助医療とよばれるものになります。
排卵する直前の卵子を体外に取り出し、体の外で受精させる方法です。
自然に受精するのを待つ一般体外受精、1つの精子を卵子に注入する顕微授精があります。

1回の採卵あたりの妊娠・出産率は、一般治療を行った場合の妊娠・出産率より高く、早く妊娠できるかもしれません。

しかし、生殖補助医療では、採卵に伴う合併症などを考えると、人工授精までの一般治療に比べてリスクが高くなります。
また、通院回数が増えることによる負担、経済的な負担も無視できません。

そのため、負担が少ない一般治療から徐々にステップアップするという方法がとられるのです。
もちろん、生殖補助医療が必要な異常が見つかった場合には、最初から適切な治療法を選択することになります。

残念ながら、これらの治療を駆使しても、すべての女性が妊娠・出産できるわけではありません。
治療効果は年齢によっても異なり、若い世代の方が妊娠・出産率は高くなります。

治療をするのか、しないのか。
いつからするのか、いつまでするのか。
そして、治療内容は。

それぞれのカップルにとって、正解は異なります。
お互いの気持ちを確かめ合って、一番よいと思える選択肢を見つけていきましょう。

最後に、原因が分からないときはもちろん、たとえどんな異常があっても、「自分のせいだ」「相手のせいだ」という考えはお持ちにならないでください。
故意ではないのですから。しかも、自分や相手を責めてもいいことはありません。

不妊治療について疑問が生じたら、「ちょっと疲れたな」と思ったら、ぜひMimosaのつぼみサロンにお越しください。
疑問や不安を解決したり、仲間と語らったりする場を提供しております。

参考にしたもの

今回を含めた「妊娠のしくみから不妊治療を考える」では、日本生殖医学会のホームページにあるQ&Aのほか、下記書籍を参考にしています。

今すぐ知りたい!不妊治療Q&A―基礎理論からDecision Makingに必要なエビデンスまで―.久慈直昭・京野廣一編集.医学書院.2019年4月発行