妊娠のしくみから、不妊治療を考える(その2)

配偶子が出会って、受精する

排卵する

女性の配偶子である卵子は、卵巣内の卵胞とよばれる袋の中で育ちます。
卵子が成熟すると、卵巣の皮を破って腹腔内に飛び出て、排卵します。

この排卵のしくみを司っているのが、脳から出るホルモンと卵巣から出る女性ホルモン(エストロゲン)です。
これらのホルモンは、お互いの量の増減に影響しあい、卵子の発育や排卵を起こすようなサイクルを作り出しています。

もし、このホルモン変化のサイクルがうまくいかないと、卵子はなかなか排卵しません。
これを排卵障害といいます。

排卵できているかどうかは、基礎体温を測ったり、超音波検査で卵胞の大きさを測ったりして判断します。

ホルモンの変化がうまくいかない理由はいくつかありますが、排卵誘発剤を使って排卵を促したり、高プロラクチン血症の人にはプロラクチンを下げるお薬を使うことで排卵のリズムを取り戻す治療を行います。

卵管までの移動(卵子編)

ところで、卵子と精子が出会う場所はどこでしょう?
それは、卵管の中、卵管膨大部とよばれる場所です。

卵管は、小指よりも細いくらいのふにゃふにゃした構造で、子宮から両側にのびています。
その先には、卵管采とよばれるイソギンチャクのような構造があり、ここが卵子にとっての入口になります。

腹腔内に飛び出た卵子は、卵管の先にある卵管采とよばれる場所に取り込まれて、卵管内に入ります。
この取り込みがうまくいかないことをピックアップ障害と言います。

卵管が通っているかどうかは、子宮卵管造影検査で調べることが可能ですが、このピックアップという機能がうまく働いているかどうかを調べる検査はありません。
タイミング療法や人工授精を繰り返しても妊娠しない場合、ピックアップ障害も原因である可能性を考えます。

卵子がピックアップされないと、精子と出会うのは困難になります。
その場合は、卵子を体の外に取り出してきて確実に精子と出会える場を作ってあげる必要が出てきます。
それが体外受精になります。

射精する

精巣内で作られた精子は、精巣上体に蓄えられます。
精子が精嚢から分泌される液体と一緒になって、尿道口から精液として射出されることを射精と言います。

性行為を行うためには、陰茎が勃起し維持する必要があります。
十分な勃起が得られない、維持できないことを勃起障害(ED)といいます。

勃起障害では、生活習慣の改善やカウンセリングを行うほか、PDE5阻害薬を用いる薬物療法で治療します。

また、射精がうまくいかないこと(射精障害)もあります。
膣内射精がうまくいかない、神経が障害されたこと(脊髄損傷など)によるもの、逆行性射精などがあります。
マスターベーションでは射精可能なら人工授精、不可能なら精巣内精子採取術(TESE)をします。
逆行性射精には、抗うつ薬が有効です。

卵管までの移動(精子編)

精巣から尿道口までの通り道が閉塞していることで精液の中に精子が存在しないこともあります。
閉塞性無精子症というものです。

通り道を作り直す手術(精路再建術)やTESEが必要になります。

無事に腟内に射出された精子は、子宮の頸部をくぐり抜け、子宮内を通って卵管まで移動します。
最初の関門は腟。腟の中は酸性のため、そこにとどまっていると精子は死滅してしまいます。
子宮頸管に到達すると、子宮頸管粘液の中を泳いで子宮腔内に進みます。
最終的に、卵管まで達して卵子と出会います。

子宮頸管粘液は、排卵する時期にはその量や性状が変化し、精子が泳ぎやすくなります。
このような本来の変化が起きない場合、あるいは精子の動きを止めてしまうような抗体(抗精子抗体)を含む粘液の場合、頸管因子による不妊症ということができます。

抗精子抗体がある場合には、人工授精や体外受精を選択します。
頸管粘液に問題があるときも、人工授精を考慮します。

卵子も精子も、受精する前に卵管を通ります。この卵管がつまっていて通れないとしたら?
卵管の通過障害があるということになります。
卵管采やその周りの癒着、卵管内の癒着や狭窄、卵管内の水腫(水が溜まっている状態)などがあります。
卵管は、受精の場でもあるため、炎症などがあれば受精環境にも影響をきたします。

卵管が閉塞している場合には、卵管鏡下卵管形成術を行うことがあります。

受精する

精子と卵子が出会って、卵子の中に精子の核を送り届けることを受精と言います。

精子は、卵子に出会うまでに受精できる能力を持つようになります。卵子の周りにある透明帯とよばれる膜を突き破って、卵子の中に入り込みます。
透明帯には、精子が1つ入り込んだら、それ以上は入り込まないようなしくみが備わっています。

この受精がうまくいかないと、受精障害があることになります。
一般的な不妊の検査では、受精障害の有無はわかりません。
体外受精を実施すると、体の外で受精する過程を観察することができるので、受精障害があるのかどうかがはっきりします。

受精障害がある場合には、顕微授精をするなどの生殖補助医療が必要になります。

次回は、受精卵ができてからのお話をします。