子どもたちに、性と生殖について語ってきました

地元の小・中学校で性教育講演をする機会に恵まれました。
最初は恥ずかしそうな顔も見られましたが、最後まで真剣に話を聞いてくれました。
産婦人科医として、小・中学生に伝えたかったことをまとめます。

大人になるということ―小学4年生を対象に―

思春期は、大人の体へと変化する時期です

思春期とは、大人の体へと変化をする時期をいいます。
年齢でいうと、8-12歳くらいをさします。

思春期になると、脳がホルモンという物質を使って、全身に命令を送ります。このホルモンが性器に働くと、今度は性器が性ホルモンとよばれるホルモンを出します。
この性ホルモンが全身をまわると、全身でさまざまな変化が起こります。これを第二次性徴といいます。

男性は男性ホルモン、女性は女性ホルモンをメインに出します。
その結果、男性と女性の体は、大人になると、小さい頃よりさらに違いがはっきりしてきます。

大人の体になると、新しい命のもとを作るようになります

新しい命である赤ちゃんが、一番最初にこの世に誕生する時は、非常に小さい細胞1つからスタートします。その細胞は受精卵といいます。
受精卵は、女性の体の中にある子宮の中で、細胞の数をどんどん増やし、やがて赤ちゃんの形になります。

赤ちゃんは、自分で呼吸をしてミルクを飲めるようになるまで育ってから生まれてきます。受精卵ができてから、だいたい10か月くらいかかります。
それまで、お腹の中で赤ちゃんを育てることを妊娠といいます。

新しい命は、たった1つの細胞から始まりますが、そのもとは実は2つありました。それを卵子精子といいます。
卵子の方が大きくて丸い形をしています。精子は、オタマジャクシみたいな形をしています。卵子の直径の1/3くらいの長さしかありません。
この2種類の細胞がくっついて1つになって、受精卵になります。

卵子は卵巣で、精子は精巣で作られています。
卵巣は女性の体にあり、精巣は男性の体にあります。

射精・精通について

精子を作る精巣は、陰嚢の中にあります。精子は熱に弱いので、からだの外の涼しいところにあります。つくられた精子は精巣上体に蓄えられます。
卵子と出会うためには、体の外に出してあげる必要があります。体の外に精子を出すことを射精といいます。
精管という細い管を通り、精嚢という袋から出された液体と一緒になって、精液として陰茎から出てきます。

「おしっこの通り道と一緒か、汚いなぁ?」と思うかもしれません。
でも、大丈夫です。本来、尿も汚いものではないのですが、尿と精液が混ざらないように、逆流防止システムが働きます。

生まれて初めての射精を精通といいます。
初めてのことなので、ちょっとびっくりしてしまうかもしれないので、あらかじめ大切なポイントを知っておきましょう。

精液はほんのちょびっと、2㏄くらいですが、そこにたくさんの精子がいます。
精子は小さくて弱いので精液の成分に守られている必要があります。そのため、精液は精子を守るためにちょっとネバっとしていて、かつ栄養分を含んでいます。
汚いとか不潔と思わないでください。

体が大人になると、射精したいタイミングにできるようになりますが、最初の頃は、自分が意識していなくても「寝ている間に射精しちゃった」ということがあるかもしれません。
朝起きたとき、パンツが濡れていたり、ねばねばしていたものがついていたら、それは射精のあとかもしれません。
そんな時は、新しいパンツにはきかえて、脱いだ方はささっとお水で洗ってしまいましょう。だいたいとれたら、あとは他の洗濯物と一緒に洗ってもかまいません。
そして、洗濯をしてくれる人に事情を話しておきましょう。「あ、大人になったんだな」って思ってくれるはずです。

月経・初経について

卵巣は、子宮の左右にあります。卵巣が卵子を出すことを排卵といいます。
卵子は精子と違って体の外に出す必要はありません。移動が少ない代わりに、赤ちゃんを育てるための栄養と環境を準備するのが卵子と子宮のお仕事です。

赤ちゃんが大きくなるためには、へその緒を通して、お母さんの体から栄養や酸素をもらいます。でも、受精卵がまだ赤ちゃんの形になっていないうちは、へその緒がありません。受精卵は子宮の壁に直接くっついて、そこから栄養をもらう必要があります。
子宮の壁は、受精卵がくっついたときにちゃんと育てられるよう、子宮内膜を厚くして準備しています。

準備をしていたのに受精卵が来なかった時、いったん準備をやめて次の準備に入ることになります。この現象を月経といいます。だいたい月に1回程度起こります。
子宮内膜がはがれたものと、子宮内膜を厚くするために栄養を送っていた血管から出た血液が一緒になって出てきます。

月経が出るのは、子宮の下につながっている腟という場所からです。
月経がある間は、下着にナプキンを付けたりして、出てきた血液をキャッチしてもらいます。ナプキンは、月経のことを生理ともいうので、生理用品として売られています。
中学生になるまでに、多くの皆さんが初めての月経、初経を迎えます。
あらかじめお母さんなどに、月経になった時にはどうしたらよいのか相談しておきましょう。

血が出ると聞くと、痛そうですよね。でも、大丈夫。多くの場合、なんとなく重たい感じがあるくらいです。
子宮は早く血を止めるために収縮しながら中身を押し出します。それが痛みとして感じられることもあります。
そんな時にはおなかを温めると楽になります。どうしてもつらい時には痛み止めを飲んでも構いません。しんどい思いをして我慢するものではありません。

月経は、大人になるとだいたいひと月に1回来るようになります。 自分のリズムというものができてきます。
ただ、すぐに順調になるとは限りません。量もまちまちのことがあります。
学校に来たら、突然なった!ということもあるかもしれません。
その時は、保健室の先生に相談しましょう。保健室には、ナプキンの準備があるはずです。

毎月出血するというのは、想像すると大変なことかもしれませんが、大人になるための大事なステップだと思ってください。

大人の体への変化には、個人差があります

大人の体への変化の中で、一番大切なことは何でしょうか。
私は、個人差があることだと思います。
お友達より、早い遅い、大きい小さい、いろいろ違いがあるのが特徴です。他人と比較するものではありません。自分自身の体の変化を大切にしてください。

ところで、ふだんの生活で他人に性器を見せないのは、なぜでしょうか。
それは、性器が大切なものだからです。大切なものは、いつでもどこでも誰にでも見せるものではありません。

恥ずかしいから見せないのではなく、大切なものをいつでもどこでも誰にでも見せてしまうことが恥ずかしいことなだけです。
そんな風に見せてはいけないし、見せられてはいけません。
もちろん、他の人に見せろって言ってはいけないし、見せろって言われたときは誰かに助けを求めましょう。

大切なものを他人に見せたり見たりするのは、自分の大切なものを自分で守れるくらい成長してからにしてほしいと思います。
性は、からだの性もこころの性も同じくらい大切なのだということも、覚えておいてください。

大人になる前に知っておいてほしいこと―中学3年生を対象に―

性には、生物学的な性と社会的な性があります

生物学的な性(セックス、からだの性)は、染色体の組合せで決まっています。実際には、染色体を調べるのは大変なので、外見すなわち性器や外陰部の形、からだつきなどで判断されます。

人間では、X染色体とY染色体を1本ずつ持つのが男性、Y染色体の代わりにX染色体を2本持つのが女性です。
お母さんのおなかの中にいる時に、Y染色体にあるSRYという遺伝子が働くと、生殖器が精巣になります。その遺伝子が働かないと生殖器は卵巣になります。生殖器が精巣になったら、精巣が作る男性ホルモンが働いて性器が男の子仕様になり、生殖器が卵巣になれば女の子仕様の性器に育ちます。

女性の性器は、体の外に飛び出ている部分はほとんどなく、おなかの中で守られています。男性の性器は、陰茎や精巣が体の外に飛び出ています。赤ちゃんが生まれると、この外陰部の見た目で男女を判断しています。
実は、この判断が間違っていることが稀にあります。遺伝子の命令がきちんと伝わらなかったり、間違った命令を出したりすることがあるからです。判断する医療者もおなかの中まで確認していません。そういう曖昧さがあることも知っておいてもよいかもしれません。

一方、社会的な性(ジェンダー、こころの性)は、人々とのかかわりの中で明らかになっていくものです。
自分の性が男であるとか、女であるとか、よくわからないとか、その認識を性自認といいます。
また、自分がどの性別を好きになるかという意識を性指向と言います。
社会的な性は、性自認も性指向も、生まれつき決まっているものです。好みではないので、変えようとしても変えられるものではありません。

多くの場合、生物学的な性と社会的な性は一致しています。性指向の対象は異性であることが多いでしょう。
でも、そうではない人もいます。
思春期は、体が大人へと変化する時期なので、性に関して違和感を持つかもしれません。また、そろそろ好きな人ができる時期でもあるので、性指向に関しても戸惑うことがあるかもしれません。

生物学的、社会的を問わず、性や性別で悩んでいる人は少なくありません。
自分もそうかもしれない、お友達もそうかもしれない。
そう考えることができる、思いやりを持った人に育ってほしいと思います。

精子と卵子が結合(受精)するために、ヒトは性交をします

精子は、射精によって男性の体の外に出ます。一方、卵子が排卵されるのは女性の体の中です。
精子と卵子は、女性の体の中にある卵管で出会い、受精卵になります。受精卵は、その後子宮に移動して子宮の中で育ちます。

精子を卵子のある卵管まで届けるのが、狭義の性交です。男性は、陰茎を腟の中に入れた状態で射精することで、精子を女性の体の中の通り道(腟~子宮~卵管)に送り込みます。
男性は、射精する時は、腟に入れやすいように陰茎を勃起させて硬くします。でも、ずっと硬い状態だと普段の活動には邪魔だし危険も伴うので、必要な時にだけ勃起して腟の中で射精する必要があります。
人間の体では性的な興奮や性交の刺激を合図に、必要な時だと認識します。すなわち、性的な興奮があれば陰茎は勃起し、腟の中で鬼頭に刺激がある程度加わったら射精するという仕組みができています。
結果として、男性は、性的な興奮があると勃起して、その状態で鬼頭に刺激が加わると興奮が強くなり、やがてピークに達すると射精します。そして、快感や満足感を伴って勃起が収まります。

射出された精子は、そのあと腟から子宮、卵管へと泳いで到達します。精子は、2㏄くらいの精液の中に1億個くらいいますが、卵管まで到達して卵子と出会えるのはごくわずか、最終的に一番元気な精子が1個だけ卵子とくっつくことができます。

このように、性交の目的は、新しい命をつくる「生殖」です。
でも、人間は、そのためだけに性交をしているわけではありません。他の動物より少し脳が発達して、いろいろな感情や欲望を持っているので、それらを満たすためにも性交をしています。
男性の勃起から射精までの一連の変化には快感を伴いますが、女性も性交をすると気持ちいいと感じます。そして、好きな人と一緒にその気持ちや体験を分かち合うという、共感も得られます。
女性の体も、性的な刺激によって、精子が通りやすくするためにおりものが増えるなどの変化が見られます。でも、男性の体ほど変化や反応が画一的ではありません。
また、男性も女性も、性交の時の体の変化や反応は、もともとある体の仕組みです。体が反応しているから本人が喜んでいる、OKであるというわけではないことも覚えておきましょう。

性交に伴うリスク=妊娠する可能性について

性交は生殖行動なので、性交をすると当然妊娠する可能性があります。妊娠に関する知識を持たずに性交してはいけません。

  • 自分や相手の妊娠しやすい時期を知っていますか?→絶対安全という日はないと考えましょう。
  • 妊娠しやすい時期(排卵前後の1週間)で、どのくらいの妊娠率があるでしょうか?→だいたい20%。宝くじよりもずーっと当たりやすいです。
  • どうやったら妊娠をしないで済むでしょうか?→避妊方法として、お勧めできるのは、女性がピルを飲む方法と男性が陰茎にコンドームを付ける方法です。
    • ピルは、産婦人科を受診して処方してもらいます。毎月2000円から3000円程度かかります。お薬なので副作用もありえます。ネットで安く買える輸入品もありますが、お勧めしません。
    • コンドームは、10個1000円くらいで、コンビニでもドラッグストアでも買えます。最初から正しくつけることが重要です。
    • 本当は、ダブルで使ってもらえると嬉しいです。
  • 各避妊方法の成功率はどのくらいですか?→どちらも100%ではありません。
    • 避妊をしないでセックスしていたら1年で85人が妊娠します。
    • ピルを飲んでいたら、それが0.27人に減ります。
    • コンドームでは、2-15人と言われています。ピルより失敗率が高いです。
  • 妊娠したかどうかは、どうしたらわかるでしょう?→妊娠検査薬で調べます。ドラッグストアで買えます。
    • 妊娠している場合、月経が1週間くらい遅れた頃から、検査薬が陽性に出ます。つまり、妊娠にいたる性交から3週間たった頃です。
    • 月経が遅れたかどうかを確認するために、月経が始まった日、セックスした日、メモしておきましょう。
  • 妊娠反応が陽性に出たら、どうしますか?→産婦人科に相談しましょう。もちろん、パートナーや親にも相談が必要です。

性交に伴うリスク=感染症について

性行為で感染する病気のことを性感染症といいます。性感染症は、原因になる病原体も、うつり方やうつりやすさもさまざまで、出てくる症状もいろいろです。
症状がはっきりしないものもあるので、知らないうちにかかったりうつしたりすることもあります。

これらの病原体は、精液やおりもの、血液などの体液の中にいることが多く、粘膜とよばれる部位に病原体がくっつくことでうつります。口の中も性器も表面は粘膜に覆われているので、キスだけでも病気がうつる可能性があります。口と性器も、危険な組み合わせです。

コンドームは、物理的なバリアとなるので、性感染症の予防に一定の効果があります。
しかし、それだけでは完璧には防げません。もし、絶対に感染したくないという場合には、性交をしないという選択肢を考えましょう。

かかったかな、うつしたかな、と心配になった時、性感染症の検査を受けることができます。
保健センターでは、多くの場合、無料で匿名で検査を受けることができます。

リプロダクティブライツ(性と生殖に関する権利)を尊重しましょう

性と生殖に関する健康をリプロダクティブヘルスといいます。リプロダクティブヘルスは、基本的人権として尊重されるべきものです。権利ということでリプロダクティブライツということもあります。
性指向や性自認は、性に関するアイデンティティです。ともにリプロダクティブライツとして尊重しましょう。

また、性に関する意思決定も、尊重されなくてはなりません。性交するという状況では、自分がどうしたいのか、相手がどうしたいのか、という意思が非常に重要です。

「したくない」と思うことは、全く悪いことではありません。
正々堂々と断ってください。それで、だめになる関係はさっさと切った方がいいです。

では、相手の気持ちはどうやって確かめますか。
好きだって言ってたから大丈夫。キスをしたからその先も大丈夫。おうちで2人きりになったんだから大丈夫。全部間違っています。
「してもいい?」ちゃんと聞いてください。

自分と相手のことを大切にすることに関連して、マスターベーションの話もしておきましょう。
自分の体や性器を触って、自分で気持ち良くなることをマスターベーションといいます。男子も女子も、マスターベーションをすることが間違っているとか良くないということは全くありません。
自分で気持ちいいと思えることは、実際に性交する時に役立つかもしれません。性交したくてもできない時に、自分の気持ちをコントロールしてあげることもできます。
特に男性は、是非、正しいやり方を身に着けておきましょう。本来の性交と同じような刺激を加えましょう。あまりに強く刺激していると、本番でうまくいかなくなるかもしれません。

大人になるということは、生物としては生殖能力を持つこと、人間としては社会で責任を持った存在になり、自分のことや相手のことを守り、尊重できるようになることです。
性交は生殖行動であるだけでなく、自分や相手の心身ともに大切なところに触れる行為です。自分や相手をきちんと守れない人がするのはお勧めできません。
皆さんがリプロダクティブヘルスを大切にして、心身ともに健やかで幸せな毎日を過ごすことを願っています。