おむつの中の婦人科的トラブル(1)―転ばぬ先の杖は、寝たきり前の婦人科受診―

介護士

閉経した後も、女性特有のトラブルをきたすことがあります。
それらは、介護が必要になってからも起こりえます。
残念ながら、最近、増えている印象があります。

将来困らずに済むためには、今できることは?
介護する側、受ける側、そのご家族が知っておきたいことは?
産婦人科医としての診療経験をもとに、2回に分けてお伝えします。

第1回目は、おむつを使用している方に見られる婦人科的トラブルと、今から取り組める予防方法について解説します。

※本コラムの内容は、2019年11月25日に開催したMimosaのサロン「こだち」のワンコイン講座でお話ししたものです。

「うわぁ、なんか出てる!」

高齢女性のおむつ交換をしています。
「何か出ている」と気付いたとき、それは何でしょう?

可能性があるものを挙げてみましょう。

答え
・体液
・臓器
・異物

それぞれについて、解説していきます。

1.女性器の解剖(体の中および表面の構造)

まず、女性の体の中を見てみましょう。
下腹部には、おなか側から膀胱、子宮、直腸があります。

女性の内性器
日本産婦人科医会「思春期ってなんだろう?性ってなんだろう?2019年度改訂版」より引用

膀胱からは尿道が、子宮からは腟が外陰に向かいます。
直腸の出口は肛門です。

次に、体の表面にある性器(外性器)のお話をします。

女性の外性器
日本産婦人科医会「思春期ってなんだろう?性ってなんだろう?2019年度改訂版」より引用

女性の外性器は、外陰部にあります。
外陰部では、前の方から順に尿道口、腟、肛門が並んでいます。

尿道口、腟の左右には小陰唇というひだがあり、脚を閉じると尿道や腟を守ってくれる蓋のような役割を果たしています。

体の中にある筋肉で、ひとつ注目してほしいものがコチラ。

骨盤底筋群
亀田グループ 医療ポータルサイトHPより引用

膀胱や子宮、腸などの骨盤内の臓器を支える働きをしているのが、骨盤底筋群とよばれる筋肉です。
いくつかの筋が集まって、これらの臓器が下がらないように支えるほか、尿道や肛門を締める役割を果たしています。

2.「出てくるもの」別、病気の話

まず、一覧をお示ししましょう。

体液

1.尿

尿が意図せずに出てしまうことを尿失禁と言います。
尿失禁を分類すると、次のように分けることができます。

  • 腹圧性尿失禁…腹部に力を入れた時に、尿が漏れる。女性の尿失禁の中で最も多い
  • 切迫性尿失禁…急に尿がしたくなり(尿意切迫感)、我慢できずに漏れてしまう
  • 溢流性尿失禁…自分で尿を出したいのに出せず、尿が少しずつ漏れ出てしまう
  • 機能性尿失禁…身体運動機能の低下や認知症が原因でおこる尿失禁(排尿機能は正常)

2.血液

血液がどこから出てくるか、によって、可能性の高い病気が異なり、専門とする診療科も違ってきます。

尿道口から:専門は泌尿器科、時に腎臓内科
  • 血尿…膀胱炎が原因のことが多い
  • 尿道カルンクル…尿道にできる良性腫瘍。症状が強くなければ放置可能
腟から:専門は産婦人科
  • 腟炎(多くは萎縮性腟炎)
  • 子宮頸がん
  • 子宮体がん
  • 子宮留血腫(子宮体がんや子宮留膿腫の症状として)

大切なことなので、コメントをはさんでおきます。

閉経後の性器出血は、すべて不正出血です。
そのうちの10%が悪性疾患(がん)と言われています。

腟からの出血を疑った時は、必ず産婦人科を受診しましょう。

肛門から:専門は外科、消化器内科
  • 血便…感染、炎症、腫瘍など、原因はさまざま

3.帯下(おりもの)

  • 細菌性腟症…腟内の細菌叢のバランスが崩れた状態
  • 萎縮性腟炎…エストロゲン不足に伴う腟壁の炎症
  • その他の腟炎…カンジダ症など
  • 子宮留膿腫…腟内の細菌が子宮に到達して膿がたまる状態

臓器

  • 膀胱瘤…膀胱が腟前壁を押して、腟内に下がってくる状態
  • 子宮下垂、子宮脱…子宮が下方に向かって、腟内に下がってくる状態
  • 直腸瘤…直腸が腟後壁を押して、腟内に下がってくる状態

これらをまとめて、骨盤臓器脱と言います。

異物

  • ペッサリー(骨盤臓器脱の治療目的で挿入していたもの)
  • 腟石(帯下などが結晶化したもの)
  • その他

解説:おむつを使っている時に問題になる疾患

ここで気になるのは、やはり命にかかわることがある病気でしょう。
一覧でお示しした疾患のうち、産婦人科が関わるものに限って言うと、子宮がんと子宮留膿腫が相当します。

子宮がん

子宮がんは、頸がんも体がんも性器出血の原因となります。繰り返しになりますが、出血があったときには産婦人科を受診しましょう。

がんが見つかったときには、進行期やがんのタイプ(組織型)に合わせた標準治療に沿って治療します。子宮がんは早期に見つかれば、5年生存率も比較的高いがんです。

問題は、ご高齢の方に「標準治療」をするかどうか、になります。
治療をする場合、標準治療どおりの手術や抗がん剤、放射線治療に耐えられるのか。
標準治療をしなかった場合、子宮からの出血をどうコントロールするのか。
さまざまな点から、メリットデメリットを考えたうえでの判断が必要になります。

子宮留膿腫

腟から膿のような帯下が出るのが主症状です。
腟の炎症(細菌性腟症など)でも帯下がありますが、それよりも量が多かったり臭いがきつかったりします。

子宮の中まで細菌が入り込むことが原因です。大便などにいる菌が腟を通って入り込みます。
細菌が腟に入り込んだときは細菌性腟症です。それより奥まで細菌が入り込んで増えているわけですから、外陰部の清潔度が落ちただけではなく、本人の免疫力の低下なども関係していると思われます。

子宮の中に細菌を含んだ膿がたまるので、発熱や腹痛を起こしそうなものですが、そのような症状が全くない例も少なくありません。

ただ、子宮の中にたまった細菌が血管に入り、全身に回った場合、菌血症や敗血症とよばれる状態になって、命にかかわることもあります。
突然、発熱してショック状態になった高齢女性が、実は子宮留膿腫だったという症例報告も見かけます(逆に言えば、報告されるくらい珍しい)。

治療は排膿と抗生物質による治療が基本となります。
排膿、と簡単に書きましたが、ご高齢の方の場合、婦人科的な診察がそもそも困難なことが多く、確実な排膿処置を実施するのは簡単ではありません。
また、最近、原因となる菌がESBL産生型の大腸菌である症例が多くなっています。ESBL産生菌は、抗生物質を分解する能力を持った薬剤耐性菌です。治療が難しい可能性があるほか、院内感染を起こさないように注意しなくてはいけません。

子宮留膿腫で来られる高齢の方は、ほとんどの場合、常におむつを使用、移動は車いす、介護サービスを利用中です。そして、施設に入っていらっしゃる方が多い。
ご本人のQOL(生命の質)やADL(普段どの程度動けているか)、介護の状態などを総合的に考えて、治療方針を考えていく必要があります。

3.どうすれば防げるか、予防の話

「年齢を重ねたら、もう産婦人科にお世話になりたくない。」
その気持ち、よく分かります。そのために、日頃から実践できる予防策をご紹介します。

尿失禁は、自分でも治療ができる

年齢とともに、排尿トラブルは増えてきます。

腹圧性尿失禁を予防、治療するには骨盤底筋群体操をしましょう。

骨盤底筋群体操は、Mimosaによる健康講座でも取り上げたことがあります。
詳しいやり方はこちらをチェックしてください。

切迫性尿失禁には、排尿日誌と膀胱訓練が効果的です。
薬による治療が必要なこともあるので、産婦人科医や泌尿器科医に相談しながら取り組みましょう。

排尿トラブルをコントロールできているメリットは、身体が弱ったり移動に介助が必要になったときでも、おむつの使用を遅らせることができることです。

子宮がん検診は、定期的に受けておく

子宮がんに対しては、二次予防(早期発見)としての子宮がん検診をお勧めします。

二年に一度の子宮頸がん検診、不正出血があったときの子宮体がんの検査。
これらのチェックを若いうちから心がけていれば、いざ高齢になってから出血してもがんの心配は最小限で済みます。

閉経から10年間、定期的に受けているがん検診で異常を指摘されていなければ、その後は婦人科検診を終えるタイミングを主治医と相談しても良いでしょう。

おむつが必要ない、自立した老後を目指す

そして、最も大切なのが、おむつが必要ない老後のために、元気でいること。

80代で産婦人科を受診される女性の9割以上がおむつを使用されています。
症状のほとんどが、「おむつに帯下(おりもの)がついている」です。
おむつを使用することで、どうしても腟の中に雑菌が入りやすくなり、細菌性腟症や子宮留膿腫を起こしやすくなっているのです。

80代になっても、おむつが必要でなければ、産婦人科を受診する必要もないのではないかと思えるほどです。

おむつを使用している高齢女性が産婦人科を受診された場合、車いす移動の方がほとんどです。
そして、産婦人科の内診台に上がるのが、非常に大変です。骨折や手術をしていなくても、脚が開かなくなっているからです。

おむつを使用する理由はさまざまなのでしょうが、身体が弱って自分で思うように動きにくいというのも大きな理由のように思います。

このように、身体が弱ることをフレイルと言います。
フレイルになると、婦人科のトラブル以外にも多くの不調をきたしやすくなります。
若いうちから、身体を動かす習慣をつけて、フレイル対策をしておきましょう。

まとめ

閉経を迎えると、産婦人科はますます足が遠のく診療科かもしれません。

そうなる前に、婦人科的トラブルがないかチェックしておくこと。あれば解決しておくこと。

更年期以降の毎日を楽しく健やかに過ごせるポイントです。
そしてそれは、介護が必要になったときにも産婦人科受診の必要性を減らせるメリットにもつながります。

転ばぬ先の杖。
元気なうちに、産婦人科を受診しておきましょう。

次回は、おむつ使用時の婦人科的トラブルの対処について解説します。