女性のための、産婦人科医による、女性ホルモンに関係する治療
女性ホルモン(エストロゲン)に関係する治療
前回、女性ホルモンが関係した病気をいくつかご紹介しました。
→ママ世代が気にしてほしい、女性ホルモンが関係する病気
他にも、子宮内膜症や子宮筋腫、子宮体がんや乳がんなど、どちらかというと女性ホルモンによって進行してしまう病気もあります。
いずれも女性ホルモンが関係していることから、女性ホルモンの量を調節することで治療に結びつけることが可能です。
今回は、女性ホルモンを増やしたり減らしたり、女性ホルモンを調節する治療についてご紹介しましょう。
女性ホルモンを増やす
ホルモン補充療法
女性ホルモンが不足しているときには、女性ホルモンを補う治療を行います。それが、ホルモン補充療法です。
対象となる病気は次のとおりです。
・性腺機能低下症(性分化疾患をお持ちの子どもさん)
・早発卵巣不全(40歳代前半までに閉経になった場合)
・更年期障害(更年期世代)
・萎縮性腟炎(更年期以降に。局所療法が一般的)
ホルモンの薬、というと何となく不安をもたれる方が少なくないのですが、女性ホルモンが分泌していてほしい時期、すなわち思春期~閉経を迎える頃までは、女性ホルモンを補うことのメリットがデメリットを大きく上回ります。
女性ホルモンを使えない理由がなければ、一番適した量・方法で治療していきましょう。
一方、更年期障害やそれ以降のトラブルについては、症状が改善すれば女性ホルモンによる治療を終了することも可能です。
一般的に、更年期障害に対するホルモン補充療法の場合、5年たった時点で治療を継続するかどうか検討します。
お困りの症状の状態を見ながら、主治医の先生と相談しましょう。
女性ホルモンにはたくさんの働きがあります。ありがたい効果もあれば、副作用が出ることもあります。
なるべく期待する効果だけを発揮できるよう、天然型の成分を用いたり化学構造を工夫したりしています。
また、投与方法も飲み薬のほか、貼り薬や塗り薬などから選ぶことができます。
ホルモン補充療法を受けるときには、その治療が必要なわけや期待できる効果、副作用などのデメリット、お薬の内容などを主治医の先生に確認しましょう。
安心して、納得してお薬を使うことで、女性ホルモンの恩恵を最大限に受けることができるはずです。
排卵誘発
排卵がうまくいかない場合、排卵誘発剤を使用します。
また、不妊治療では、体外受精を行う場合など、一度に複数の卵子を育てるために、排卵誘発剤を連日使うこともあります。
これらの治療の目的は、女性ホルモンを増やすことではありませんが、排卵誘発剤を使って卵子を育てると結果的に女性ホルモンの値も上昇します。
たくさんの卵子が育ったときは、女性ホルモンが高くなりすぎることによる副作用に注意が必要です。
女性ホルモンを調整する
経口避妊薬(ピル)
経口避妊薬(ピル)は、継続的に女性ホルモンを服用するものです。
服薬によって、自分の卵巣は女性ホルモンの分泌や排卵といった仕事をしなくなります。
その結果、排卵が抑制されたり子宮内膜が薄くなったりすることで、妊娠を防ぐことができます。
排卵しないので、飲み忘れがなければ最も確実な避妊方法と言えます。
緊急避妊薬は、着床しにくくすることで避妊効果を期待するものです。残念ながら、効果は100%ではありません。
気になる性交後、なるべく早く(72時間以内)に服用した方がよいので、遅くとも次の日には産婦人科医に相談してくださいね。
低用量エストロゲン・プロゲストーゲン配合剤
経口避妊薬とほぼ同じ成分、同じ原理で用いられる薬です。
排卵を抑制することで、月経困難症や月経困難をもたらすような子宮内膜症などの症状を和らげる効果が期待できます。
ホルモンの変動を抑えることができるため、月経前症候群(PMS)の症状が楽になることもあります。
子宮内膜症や月経困難症がある方に対して、黄体ホルモンだけを持続的に投与することで、同様の効果を期待する治療方法があります。
副作用の不正出血の頻度が高いのが難点ですが、子宮内膜症の痛みにはよく効きます。
女性ホルモンを減らす
GnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)アナログ療法
女性ホルモンが病気の進行に関係しているものについては、女性ホルモンの分泌を止める治療法を用いることがあります。
女性ホルモンが減るため、この治療をすると月経が止まります。
乳がんのうち、女性ホルモンに反応するタイプは、注射剤によるGnRH療法で治療することがあります。
子宮が関係する病気では、子宮筋腫や子宮腺筋症、子宮内膜症でもその進行を抑える目的で同じ成分の注射を使うことがあります。
また、2019年3月から、子宮筋腫に対して、同様の効果を発揮する飲み薬が使えるようになりました。
「注射が苦手!」という方には朗報かもしれません。新しい薬のため処方の制限があったり、注射剤と異なる点もありますので、詳しくは主治医の先生にお聞きになってください。
GnRHアナログ療法は、女性ホルモンを強力に抑えてくれますが、更年期障害と同じような症状が出てしまうことがあります。それらの対策が必要になるかもしれません。
ダナゾール療法
ダナゾールというお薬も、結果的に女性ホルモンを減らすことで子宮内膜症に用いられます。
ただ、男性ホルモンに似た物質であり、副作用の問題もあって最近では他のホルモン治療の方がよく使われています。
女性ホルモンのしくみに感謝する
女性ホルモンと女性ホルモンを出すための刺激となるホルモンは、お互いに影響しあってその量を調整しています。
このしくみによって、卵巣は排卵し、月経のサイクルをつくります。
ホルモンは、わずかな量で調整しあい、全身でたくさんの働きをしています。
人間の体の神秘を感じずにはいられません。
女性ホルモンの量を調整する治療は、これらのしくみを利用した薬剤を用います。
上記で説明した以外にも、月経の日をずらす、不正出血を止める、月経を起こすなど、産婦人科の治療では女性ホルモンを使う場面がたくさんあります。
女性ホルモンのしくみのすばらしさ、それを解明し薬剤を開発した先人に感謝しつつ、より多くの女性が健康に過ごせるよう、最善の治療を提供していきたいと考えています。
※GnRHアナログ療法について、情報を補足しました(2019年6月21日)。