プレコンセプションケアとしての栄養を考える

先日、プレコンセプションケアという概念についてご紹介しました。→記事はこちらから

今日は、その中でも「栄養」についてお話ししたいと思います。
何を食べたらいいの?食べてはいけないの?

まず、WHOが提言しているプレコンセプションケアについて確認してみましょう。

WHOが提起する、栄養に関する健康問題

お母さんと赤ちゃんにとって、何が問題?

  1. 葉酸欠乏
  2. 欠乏性貧血
  3. 母体のやせ(しばしば低身長を伴う)
  4. 母体の過体重や肥満
  5. 未治療の糖尿病(2型および妊娠性のもの)
  6. ヨウ素の不足
  7. カルシウムの不足

お母さんと赤ちゃんのために、何ができるの?

  1. 貧血や糖尿病でないか、検査しておきましょう
  2. 鉄分と葉酸のサプリメントをとりましょう
  3. 適切な情報提供を受けましょう。必要なら、カウンセリングも受けましょう
  4. 栄養状態に問題はないか、チェックしましょう。BMIの値は、19-25の間にありますか?
  5. 高エネルギー・栄養素含有食で補いましょう(幸い、日本では必要なさそうです)
  6. 糖尿病なら、きちんとコントロールしておきましょう
  7. 定期的に運動をしましょう
  8. ヨウ素添加をした塩を使いましょう(これも、日本では必要なさそうです)

「何だか、とっても当たり前」と思いませんでしたか?
そのとおり。誰もが知ってそうなことばかり。
でも、妊娠するかもしれないすべての女性が達成できているでしょうか?

厚労省が報告する、栄養に関する日本の現状

WHOが挙げた栄養に関する問題について、日本の現状を探ってみましょう。

参考にするのは、平成29年国民健康・栄養調査の報告です。
生殖年齢の女性を代表して、30-39歳のデータをご紹介します。

鉄分の1日摂取量の平均は6.4mg。
葉酸の1日摂取量の平均は226μg。
カルシウムの1日摂取量の平均は421mg。

13.4%がBMI18.5未満のやせ。
14.2%がBMI25以上の肥満。
糖尿病が強く疑われる人の割合は3.1%。
運動習慣がある人の割合は14.3%。

では、それぞれの栄養はどのくらい摂取すればよいのでしょうか。
参考にするのは、「日本人の食事摂取基準(2015年版)」です。
こちらも、30-49歳の女性の基準値をご紹介しましょう。

鉄分の1日摂取量の推奨量は10.5mg(月経がなければ6.5mg)。妊娠中期以降の推奨量は25.5mgになります。
葉酸の1日摂取量の推奨量が240μg。妊娠中の推奨量は480gになります。
カルシウムの1日摂取量の推奨量は650mg。

あら、大変!
鉄分、葉酸、カルシウム、いずれも不足しています。

国民健康・栄養調査は、調査の対象になった人に詳細な食事記録をつけてもらうため、対象者数が限られています。
そのため、平均値をとっても、日本国民”全体”の傾向とは言えないでしょう。当然、ご自分の食生活とは違っていることでしょう。
とは言え、プレコンセプションケアとして、これらの栄養素を十分に摂れているか、日頃の食生活を見直してみる必要がありそうですね。

と同時に、やせや肥満に該当する人たちの体型の標準化、糖尿病の可能性がある人に対する必要な介入(生活習慣の改善や治療など)、運動の習慣化など、赤ちゃんとお母さんの体を守るためにできることは、まだまだたくさんありそうです。

ちなみに、食事摂取基準において、妊娠中に摂取量が付加されているものは次のとおりです。

  • エネルギー、たんぱく質
  • ビタミンA(妊娠後期)
  • ビタミンB1、ビタミンB2
  • ビタミンB6、ビタミンB12
  • ビタミンC
  • マグネシウム
  • 亜鉛、銅
  • ヨウ素
  • セレン

たくさん、ありますね。
エネルギーやたんぱく質も増やすことを考えると、サプリに頼るだけでは難しそうです。
つわりが落ち着いたら、いろいろなものをしっかり食べて、赤ちゃんの成長を助けてあげましょう。

妊娠中の食事については、厚生労働省が出している妊産婦のための食生活指針を参考にすると良いでしょう。

妊娠するために、何を摂ったらよいの?

プレコンセプションケアの一環として、”妊活”のために特におススメしたい栄養についても見てましょう。

ビタミンD

ビタミンDが充足していると、妊娠率や出生率が高いという報告があります。
精子の運動能力にも関与していると言われています。

一方、国民健康・栄養調査では、1日摂取量の平均値はだいたい摂取基準に達していますが、ばらつきが大きいこともわかっています。
人によっては、摂取量が少ない可能性も十分考えられます。

また、紫外線によってもビタミンDは作られます。
それはすなわち、あまり日に当たらない人は、ビタミンDが不足しやすいということにもなります。

ビタミンDを含む食品を積極的に食べるほか、サプリメントの摂取を検討してもよいかもしれません。

ビタミンE

ビタミンEには、抗酸化作用や血流改善作用があります。
子宮内膜を厚くする効果などが期待できます。

ただ、ビタミンEについては、ふつうの食品からの摂取で不足することはないとされています。

抗酸化作用を持つサプリメント

メラトニン、L-カルニチン、レスベラトロールなどは、抗酸化作用を持つサプリメントとして注目されています。

受精率の改善、妊娠率の向上などの報告もあるので、一定の効果は期待できそうです。
しかし、ビタミンのように、生命活動に摂取が欠かせない物質とは言えません。
選択肢の一つとして考えておきましょう。

DHEA

性ホルモンの原材料になる物質です。
卵巣予備能が低下していると、サプリメントの摂取を勧められることがあるかもしれません。

一方、人によってはDHEAの摂取が逆効果になることもあります。
DHEAについては、不妊症の治療をしている方が、主治医と相談して摂取するかどうか判断することをお勧めします。

食べてはいけないものは、何?

絶対食べてはいけない、というほどのものはありません。
また、過剰摂取に注意が必要なものもいくつかありますが、ふつうの食生活で摂りすぎることはあまりないと思われます。
極端な偏食がなければ、気にしすぎない方がよいと考えましょう。

妊娠中の食事で気を付けたいことを、以下にまとめました。
”妊活”中の方も、同じように心がけておきましょう。

感染症を避けるために

風疹ウイルス、トキソプラズマ、リステリア菌など、妊娠中にかかりたくない感染症がいくつかあります。

これらを避けるために、いくつか注意が必要です。
「赤ちゃんとお母さんの感染予防対策5カ条」としてまとめられているので、ご紹介しておきます。

  • 妊娠中は家族、産後は自分にワクチンで予防しましょう! …特に、風疹は妊娠中の感染で赤ちゃんに先天性風疹症候群を起こすことがあります。最近、風疹が急増しているので、要注意です。
  • 手をよく洗いましょう!…手を洗うことは、感染予防の基本になります。特に、トキソプラズマの予防のために、生肉を扱った後、ガーデニングをした後や動物のフンを処理した後には、しっかり手を洗いましょう。
  • 体液に注意!…尿、唾液、精液などの体液は、感染の原因になる微生物が含まれていることがあります。お子さんのおむつを替えるときは、使い捨て手袋をつけて処理するか、その後にしっかり手を洗うようにしましょう。
  • しっかり加熱したものを食べましょう!…生肉、生ハム、サラミ、フレッシュチーズなども、感染の原因になる微生物が含まれていることがあります。生野菜はしっかり洗いましょう。
  • 人ごみは避けましょう!…風疹やインフルエンザは、飛沫で感染する病気です。流行時には、人ごみを避けるようにしましょう。

摂りすぎを避けたい物質―水銀、ヒ素など

大きな魚の食べ過ぎは避けましょう。
目安として、「大きな魚は週に1回程度」にしておけば大丈夫です。
マグロやキンメダイなど、大きな魚は水銀の含有率が高いため、妊娠中の摂りすぎには注意が必要です。
詳しくは、厚生労働省のパンフレットを参考にしましょう。

海藻を食べるとき、ヒジキに偏るのはやめましょう。
ヒジキを毎日のように食べなければ、問題にはなりません。
海藻のうち、ヒジキには無機ヒ素が多く含まれているため、摂りすぎには注意が必要です。
なお、海藻は、食物繊維や必須ミネラルを含んでいるため、海藻全般はお勧めしたい食品です。

農薬、殺虫剤をなるべく使っていない農作物を選びましょう。
トランス脂肪酸は、FDAでは食品への添加が禁じられました。マーガリンやショートニングを使うときは、トランス脂肪酸が含まれていないか注意してみましょう。

気になる嗜好品の是非―カフェイン、アルコール

カフェインを含む飲料は、日に3杯程度までにしましょう。
カフェインの摂取量として1日に200mgまでであれば、流産や早産の原因にはならないだろうと考えられています。
1杯のコーヒーだとおよそ137mg、紅茶では48mgのカフェインが含まれているそうです。煎茶だと、含まれている量がコーヒーに比べて少ないので、少し多めに飲めるかもしれません。
また、チョコレートやコーラ、風邪薬などにも含まれていることもお忘れなく。

アルコールは控えましょう。
以前から、アルコールを大量に飲むと、赤ちゃんに奇形などの影響が出る(胎児性アルコール症候群)ことが知られていました。
最近になって、大量(1日あたり1ドリンク以上)でなくても、赤ちゃんに影響を与えうるという報告が出てきました。
「妊娠が分かったら、アルコールは飲まない」が原則です。
アルコールと不妊症の関係はまだ完全にわかってはいませんが、影響があるという報告もあります。
”妊活”中の場合は、ずーっと我慢してストレスをためるくらいなら、時には少量のお酒をおいしく楽しむのもアリかもしれません。

おまけで一言、二言。

  • タバコは、やめましょう。
  • タバコ、アルコールなどを、どうしてもやめられないときは、依存症というお病気だからかもしれません。専門の機関に相談しましょう。

まとめ

妊娠を考えたとき、妊娠中、授乳中には、栄養に関するさまざまな情報に惑わされがちです。
でも、大切なことは基本に忠実なこと。やみくもにサプリに頼ったり、必死になって特定の食品を摂ったり避けたりする必要はありません。

妊産婦のための食事バランスガイドを参考に、バランスよく食べる。
感染予防対策5カ条を守る。

そこから始めていきましょう。

参考文献、参考にしたサイト

WHOが提起する、栄養に関する健康問題

  1. Meeting to develop a global consensus on preconception care to reduce maternal and childhood mortality and morbidity. Geneva, world Health Organization, 2013.…WHOによるプレコンセプションケアに関する報告書
  2. Preconception care policy brief…プレコンセプションケアについてまとめたPDF

厚労省が報告する、栄養に関する日本の現状

  1. 平成29年国民健康・栄養調査報告
  2. 日本人の食事摂取基準(2015年版)
  3. 妊産婦のための食生活指針

妊娠するために、何を摂ったらよいの?

  1. 久慈直昭、京野廣一編集:今すぐ知りたい!不妊治療Q&A.p272-279.医学書院、2019.

食べてはいけないものは、何?

  1. 赤ちゃんとお母さんの感染予防対策5カ条… 日本周産期・新生児医学会、日本小児科学会 日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会による
  2. 風疹急増に関する緊急情報:2019年5月22日現在…国立感染症研究所の定期的な情報提供
  3. これからママになるあなたへ お魚について知っておいてほしいこと…厚生労働省によるパンフレット
  4. ヒジキ中のヒ素に関するQ&A…厚生労働省によるQ&A
  5. 久慈直昭、京野廣一編集:今すぐ知りたい!不妊治療Q&A.p272-279.医学書院、2019.
  6. ACOG: committee Opinion No. 462, Moderate Caffeine Consumption During Pregnancy. 2010.…アメリカ産婦人科学会による、妊娠中のカフェイン消費に関する情報
  7. 食品中のカフェイン…食品安全委員会によるファクトシート
  8. ACOG:FAQ170 Tobacco, Alcohol, Dugs, and Pregnancy. 2019.…アメリカ産婦人科学会による、妊娠中のタバコやアルコール消費に関する情報
  9. 胎児性アルコール症候群…厚生労働省e-ヘルスネットによる情報提供

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