おむつの中の婦人科的トラブル(2)―案ずるより産むが易し、おむつ使用時の婦人科受診―

閉経した後も、女性特有のトラブルをきたすことがあります。
それらは、介護が必要になってからも起こりえます。
残念ながら、最近、増えている印象があります。

将来困らずに済むためには、今できることは?
介護する側、受ける側、そのご家族が知っておきたいことは?
産婦人科医としての診療経験をもとに、2回に分けてお伝えします。

第2回目は、介護士さんやご家族から寄せられた疑問やお悩みにQ&A形式で回答していきます。
ご意見をくださった皆さまに、この場をお借りして感謝申し上げます。

※本コラムの内容は、2019年11月25日に開催したMimosaのサロン「こだち」のワンコイン講座でお話ししたものです。

1.おむつの管理で気を付けたいこと

まず、大切なポイントをまとめました。
解説は、Q&A形式で付け加えています。

  1. 自立排泄をめざす
  2. 清拭、スキンケア
    • 汚れたら速やかに交換
    • ていねいに清拭、乾燥させる
    • 陰部の洗浄、保湿
  3. 異常にきづく
    • 皮膚の状態
    • 帯下や出血の有無

自立排泄って、おむつをしないということ?

自立した排泄とは、おむつの有無だけで判断するものではありません。
自立排泄には、いろいろな段階があると考えましょう。

排泄には次のようなプロセスがあります。

  1. 尿意・便意の自覚
  2. トイレへの移動
  3. 衣類の着脱
  4. 排泄準備
  5. 排泄
  6. あとしまつ

排泄ケアは、それぞれのプロセスにおいて、自分でできることはなるべく本人の力でする、自分でできないことだけをサポートするのが基本になります。

そのうえで、自分でできる(できるかもしれない)のにしていないことに挑戦し、自分でするようにしていくことが自立へのステップです。
個人個人の目標は異なります。介助を伴う自立、用具を用いた自立、それぞれの自立を目指しましょう。

排泄ケアについて詳しく知りたい方は、「排泄ケアナビ」というサイトがおススメです。
排泄ケアの基本からおむつの選び方まで、丁寧に解説されています。

おむつ交換のときに一番イヤなのは、泥状便が陰毛にこびりついていること

イヤな気持ちになる原因について、おむつを使用していることを除いて考えると、以下の3つになるかと思います。

1.便の状態

ここで問題になるのが排便コントロールです。

高齢者では、食事量や運動量、筋力が減るために、便秘になりがちです。
一方で、便秘に対して下剤を使用すると、泥状便や水様便のように陰部の清潔を保ちにくい性状になりやすいのも事実です。

快適な排便状態になるための工夫は、本人だけでなく介護者にとっても大切です。
新しいタイプの下剤も発売されるようになりました。便が出たかどうかだけでなく、どのような排便状態かも気にかけた処方を心がけようと学ばせていただきました。

2.陰毛

「介護脱毛」という言葉を聞いたことはありますか?

将来、介護者の手をなるべく煩わせたくない、という理由で陰部の脱毛をすることだそうです。

確かに、陰毛がなければ清拭や洗浄はしやすいように思います。
でも、高齢になると毛が薄く(少なく)なっているので、そこまで心配しなくてもよいような気もします。Mimosaのつぼみサロンでこの話題になったときにも、いろんな意見がありました。

最近の脱毛事情を考えると、今後は介護脱毛に限らず、プライベートゾーンの脱毛はさらに普及していくように思います。

ただ、実際に介護が必要になってから剃毛や除毛をするのはお勧めできません。
皮膚に傷ができ、感染を起こす可能性があります。

3.こびりつく

清拭や洗浄でキレイになりにくい原因として、排便後から時間がたっている可能性があります。

排便前に分かれば、あるいは排便後すぐに分かれば、適時におむつを交換することができたかもしれません。
ご自分で伝えられるのが一番ですが、そうでなくても排泄のタイミングを予測できれば、状況は改善できる可能性があります。

どうやって予測するか。
従来から、排泄記録が活用されてきました。
排泄のタイミングを予測してトイレに誘導したり、データをもとに下剤の調整を行ったりします。

しかし、これらの介入はうまくいかないと、介護者の負担が増えるだけに終わることもあります。
(参考:特別養護老人ホームにおける入所者の重度化に伴う効果的な排泄ケアのあり方に関する調査研究事業報告書

ところで、排尿のタイミング(膀胱に尿がたまっているかどうか)が分かる排泄予測デバイスが開発されています。
(製品のHPはこちら→DFree
この会社では、排便の予測デバイスも開発中だそうです。

介護する側がイヤな気持ちになるときは、介護を受ける側も快適ではありません。
正直なところ、このご意見に上手に答えられなかったのですが、薬やデバイスなど新しい技術が突破口を開いてくれるという期待を込めて、掲載させてもらいました。

陰部の清拭は「前から後ろに拭く」じゃダメ?

誤解を招かないように、質問の全文を記載します。
「排尿後は、トイレットペーパーで前から後ろへこすって拭いてきた。何十年もそうしてきたし、娘にもそう教えた。なのに最近テレビで、陰部はこすらず、そっとあてがって水分を拭き取るだけでよい、と言っていた。ショックだけど本当か?」というものでした。

正解は、順番は前から後ろに、拭き方は優しく押さえるように拭き取る、です。

外陰部には、尿道口、腟、肛門があります。
尿は、基本的に無菌。腟内には常在菌がいる。便は1/3程度が細菌でできている。
このことを考えると、清潔度は前から順に低くなります。
そのため、清潔なところから順に拭くという意味で、前から後ろということになります。

問題は「から」という助詞の持つイメージです。
順番というより、方向性や動きを感じる言葉です。
そのため、前から後ろに向けてこする、という拭き方をされていたのかもしれません。

陰部の皮膚は、顔の皮膚と同様、薄くてデリケートです。
そのため、こするという刺激はなるべくない方がよいのです。
年齢を重ねると、皮膚はさらに薄く弱くなっているので、注意が必要です。

しかし、排便後もまったくこすらずに、というのは難しいでしょう。
こすらず、あてがうだけ、というのは排尿後の拭き方と考えてください。
便より尿の回数の方が多いでしょうから、毎回の排尿時に気を付けることが大切です。

これからは、お肌のために、優しく拭いてあげましょう。
皮膚のバリア機能を奪わないように、ウォッシュレットを使いすぎないことも必要かもしれません。
前から後ろ、順番は間違っていません。水分を拭き取ることができれば、前だけでもよい感じでしょうか。

乾燥と保湿って矛盾してない?

矛盾していません。

乾燥とは、皮膚の表面が濡れていないことです。

一方、保湿する目的は、皮膚表面の内部(表皮)に水分を保つことです。
表皮に適切な水分を保つことで、皮膚のバリア機能が発揮できます。

保湿するために必要なことは、皮膚表面を水びたしにすることではありません。
表皮に水分を保持する成分があり、皮膚表面にある油分の膜が水分の蒸発を防ぐ、という状態にしてあげることです。

皮膚の保湿については、以前のブログで開設したので、詳しくはこちらをご覧ください。

陰部の清拭では、まず水分が残らないという意味での乾燥を心がけてください。
そのうえで、皮膚がカサカサと乾燥して弱っている状態であれば、保湿クリームなどでケアしましょう。

どうやって洗浄すればよい?

寝ている状態での陰部洗浄は、次のような手順で行います。

  1. 場所の確保:腰から下の部分に、使い捨ての専用吸収シートやフラットタイプ紙おむつを敷く。
  2. 洗浄は、前から後ろへ:湿らせたガーゼや使い捨ておしりふきを用いて、小陰唇から会陰部を洗う。横向け寝にして、肛門を洗う。
  3. 先が細くなったボトルなどに入れたぬるま湯をかける。
  4. 乾いたタオルで皮膚表面の水分を拭き取る。

排便後の洗浄が重要だと思った事例を紹介します。

訪問看護師さんのサポートを受けながら、主に娘さんによる介護を受けていた女性です。
今まで、立った状態を保てていたので、排便後は娘さんがお風呂場でシャワー洗浄を行っていたそうです。
次第に下半身の力が弱ってきたため、長い時間立てなくなってしまいました。訪問看護師さんがいない間は介助者が一人のため、トイレの中で、できる範囲で清拭をしてもらうように変えざるを得なくなりました。
その後しばらくして、娘さんが帯下に気付かれ、受診なさいました。
狭いトイレの中では、清拭をするのは大変だったかと思います。
腟錠を使用しましたが、発熱が認められたため入院され、抗生物質による治療で軽快されました。

トイレ内が難しい場合、むしろ横になってもらって洗浄する方がやりやすいかもしれません。

どこからの出血か分からない

血液がパッドのどこについているか、である程度の予測は立つかもしれません。

前の方:尿道口
真ん中あたり:腟
後ろの方:肛門

血液がどのようについているか、でも推測可能です。

パッド全体に淡く血液の色:尿道口(血尿=尿に血が混じっている状態)
月経のような血液:腟
便についている、排便後に拭くとつく:肛門

診察しないと分からないことも多々あります。診察しても、分からないときもあります。
どこからの出血か分からなくても構いません。血が出ていると気付いたことが重要です。

診療を受ける際には、出血に気付いたときの状況をなるべく詳しく教えてくださると助かります。

いつ気が付いたか。
量は?頻度は?それらに変動はあるか。
1回だけか、持続しているか。排泄後だけか、それ以外でも出ているか。
性状は?なかなか言葉で説明するのは難しいと思います。

最近の若い人たちは「スマホで撮ってきた」と写真を見せてくれることがありますが、気付いたときのパッドの写真を撮ってくださるのもいいかもしれません。

2.産婦人科を受診するときに気になること

産婦人科は、敷居が高い。
高齢女性に限らず、こう思われる方は少なくないかと思います。

受診が必要なときに、少しでもその後押しができるよう、受診に関するご質問にまとめて回答します。

おむつに何かついているときに、何科を受診すればよいのか分からない

本来は、どの診療科でも構わないのです。

医師は、自分の専門範囲で異常があるかどうかを判断し、診断がつけばその治療にあたるでしょうし、判断がつかなかったり専門医の診療が必要だと考えたりした場合には紹介するはずですから。

でも、この紹介が少々厄介な点かもしれません。

受診に必要な諸々の調整をつけてやっと来たのに、別の医療機関を受診するよう指示されるとなると、大変ですよね。
特に、ご家族がお仕事をお休みになって遠方から来られたような場合、次の受診がすぐにできないかもしれません。

紹介が必要になったときに同じ病院内で対応してくれる医療機関なら、その点は容易かもしれません。
同日中に対応してもらうには、大学病院のような大きな施設ではなく、小回りの利く総合病院がよいかと思われます。
どの診療科を受診すればよいのか分からない場合も、総合受付などで相談すれば教えてくれるでしょう。

総合病院の受診で注意しなくてはいけない点は、初診時に紹介状が求められる点です。
施設に入所されていたり訪問診療を受けていれば、医師に紹介状を書いてもらえるので問題ありません。

総合病院ではない医療機関に受診する場合は、診療科を自分で判断する必要が出てきます。
気になる出血や分泌物がどこから出ているか予想がつく場合には、その専門である診療科を選びましょう。

どこから出ているか分からない場合は、どうしましょうか。
かかりつけ医がいるなら、まず相談してみましょう。
かかりつけ医がいなければ、内科(可能なら消化器内科)、泌尿器科、産婦人科で受診できそうな医療機関の見当をつけてから、その中で一番受診しやすいところに早い時間帯で行ってみましょう。違う科の受診を勧められたときに、そのまま受診できれば理想的です。

お産でもないのに、内診台に上がることを納得してくれない

産婦人科の受診が必要と思われたなら、産婦人科であることを上手に隠してでも受診なさってください。

内診台に上がることに同意してもらうのは医療者側の仕事です。
「内診は嫌がるかも」とご家族が心配されていても、ご本人にお話ししたら同意してくださることはよくあります。

どうしても同意してもらえなければ、他の診察方法を考えます(次善策にならざるを得ないかもしれませんが)。
外陰部の診察は、内診台でなくても、ベッド上で可能です。超音波検査などの画像診断を利用することもできます。

受診するときのおむつは、どのタイプがよいのか

リハビリパンツでも、紙テープ式でも、ふだんのおむつでかまいません。

内診台に上がる場合、腰かけるときにズボンも片脚は脱いでもらいます。パンツ式なら、その時点で一緒にはずします。紙テープ式なら、内診台が上に上がってからはずします。

内診台に上がるのが困難な場合、ベッド上での診察になります。パンツ式なら、ズボンと一緒に下ろします。腰の下に防水シーツを当てますが、診察室に備えてあるはずです。紙テープ式なら、はずすだけで防水シーツなしで診察できます。

気を遣って、診察前に新しいおむつやパッドに交換することは避けてください。
私は、診察をするとき、おむつやパッドの状態を見せてもらうようにしています。
貴重な情報源です。

お元気な方と違って、今までの経過や今の状態がお話を聞いただけでは分かりにくいからです。
紹介状を書いた施設の医師も介護士の報告を聞いただけで診察していない、連絡を受けて連れてきたご家族も見たわけではない、同行した介護士も自分が担当した日には症状がなかった、ということがあり得ます。

毎日の介護記録などがあると、非常に助かります。
あればお持ちください。尿パッドの替えよりも大切です。

老いていく母を見ていると、私もこうなるのか…と複雑な気持ちになります

質問者さんは、「母の現状を見ていると、こうなりたくないと思う一方で、そう思う自分に自己嫌悪。更年期以降、自分の体がどうなっていくのか知っておきたいが、勉強する時間がない。受診する時間もない」とおっしゃっていました。

おっしゃるとおり、自分の体がどうなっていくのか、知っておくのは大切なことです。
Mimosaがお役に立てれば嬉しいです。
そして、一度は時間を見つけて、ためらっている受診を実現していただきたい。

どんなに健康に気を遣っていても、老化や不健康な状態はいずれ訪れます。
個人的には、現在の介護の困難さは、高齢化問題を先送りし続けてきた社会の問題による部分も少なくないと考えます。
それを差し引いても、知識のうえに成り立った受容力を育んでおくことが、よい老後を迎えるためのカギになってくることでしょう。

すこやかな毎日から、ごきげんな毎日へ。
年齢を重ねたら、目指すところも上手にシフトしていきましょう。

まとめ

婦人科的トラブルは、おむつを使用していてもしていなくても、なるべく避けたいもの。
でも、放置するのは禁物です。

生活に支障がなければ、積極的に治療せず経過観察とすることもありますが、そのためにも専門家の判断を受けておきましょう。

どんな状況なのか、どうしてそうなっているのか。
対処方法はあるのか。それはどんなものなのか。
見通しが立っただけで、ご家族の緊張した表情がふっと緩むのを幾度も拝見してきました。

案ずるより産むが易し。
お困りのことがあれば、産婦人科に相談にお越しください。

今回、おむつの使用を始め、介護に関する内容は、介護の現場の方から多くの情報をいただきました。
まだ知識や認識不足の点があるかもしれません。
皆さまのご忌憚のないご意見をいただけると助かります。